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2013夏 四国歩き遍路 生活編

 歩き遍路では、朝起きて、歩き、日が沈み、そこで寝る生活が一ヶ月超続く。
 何事も慣れ。

 衣食住の衣。
 幸い夏であったので、衣服を多く持っていかずに済んだ。

 上はシャツに白衣。下はランニングにも使う薄いジャージを着た。遍路道には下草の多い道や山道もあるので、暑くても長ズボンを履いたほうが良い。生地は、なるべく速乾性のあるものを選びたい。

 冬より汗をかくので洗濯は絶対に必要になる。汚れた衣服がたまってくると、休憩がてら道寄りのコインランドリーや、宿の洗濯機を利用して洗濯する。
 汗を吸った服をそのままにしておくとひどいことになる。その日使った衣服は、寝る前に水洗いして汗を落とし、干しておく。白衣やジャージは、別に朝乾かなくても、また汗ですぐびしょ濡れになるのでそのまま着る。靴下等は、ピンでザックに引っ掛けていれば夕方までには乾く。

 靴は、普段から履いていた軽登山靴を使った。最初は、暑いし靴下が蒸れるのでサンダルにしようと思ったが、しなくてよかったと思う。山を歩けるような靴のほうが良い。雨に濡れると足首がきつかった。宿で新聞紙をいただければ、それを靴にギュウギュウに詰め込んでおけば、朝には履ける程度に乾いているので便利。
 夜休む時用に、草履のような物を準備しておけば、いちいち重い靴を履かずにすむので楽だったかもしれない。

 1ヶ月も歩けば必ず雨にも降られるので、雨具も必要。ザックも一緒に着ることのでき、中が蒸れないポンチョが便利。といっても安物を買ったので、実質普通に濡れてた。

 衣食住の食。
 食べるのは一番大事。食べないと人は死ぬ。

 遍路一日目は体の調子がおかしかった。体を酷使すると、血流がそっちに取られるのか知らないが、消化が悪くなる。まったく食欲が出ず、一日何も食べずに過ごした。
 遍路二日目、起きるとフラフラ。数十歩で疲れが限界に陥る。疲労から物を食べる気力も出ない。数時間寝込んだ後、パンを無理やり水で流し込んで歩いた。結局、この日は数キロしか歩くことができなかった。この時は本当に帰りたかった。旅を続けるごとに慣れて、いくら食べてもお腹ペコペコになった。

 遍路で自炊は完全に少数派だと思われる。食べ物は買えば済むが、作れば断然安い。
 栄養素で考えれば、大きく分けて炭水化物、タンパク質、ビタミンの3つ。
 炭水化物は、歩くエネルギーになるので一番食べた。米は炊くのは手間だし、買うと高い。となると照準は小麦粉にある。
食パン…スーパーやドラッグストアで見切り商品が安い。買ったら封を少し開けて潰して省スペース化。パンにつけるはちみつやらを持ち歩くと、食事が楽しくなる。朝昼用。
そうめん…自炊器具を持っていったので、茹でる行為が可能。スパゲッティも試したが、茹で時間が長い。その点、そうめんは茹で時間も短く、味が絡みやすい。いつも上の写真のように、そうめんをゆでた後に、そこにカレールーを投入して食べていた。カレーは神。見た目は悪い。毎日のようにカレーそうめんを食べていた。夜用。
うどん(生麺)…スーパーなどで安く売っている袋麺。ヒガシマルのだしなどを買って茹でて食べる。
クッキー…非常食。気の荒んだ時などに食べる。甘いといい。エースコインは良い奴。

 タンパク質はほぼ摂ることが無かった。
魚肉ソーセージ…常温で保存できる肉がこれしか見つけられなかった。たまに食べる。かじる。

 ビタミン、菜類は圧倒的に欠乏。野菜が無いと便通が著しく悪くなる。
野菜ジュース…野菜不足を補う気持ち程度の対策。
トマト…スーパーのトマトは高いが、路上販売や道の駅のトマトは嘘のように安い。調理せずに食べられる数少ない野菜であるトマトはよく買って食べた。
果物…りんごやらレーズンだのメロンとか色々。とある外人と歩いていた時は、買い物でのギャップを感じた。マンゴーの缶詰など初めて食べた。

 旅の途中から、何でも思った事は率直にやってしまおうという心変わりをしたため、土地の美味しいものは値段関係なく食べてしまうようになった。良い判断だった。
 鯨の刺身、讃岐うどん、焼き豚玉子飯、鯛めし、じゃこ天、すだちジュース、ソフトクリーム、鰹のタタキ、みかんジュース、寿司…などなど

 衣食住の住。眠らないと回復しない。

 まずは野宿の話。私は遍路にテントを持っていった。この決断は微妙なものだった。
 遍路のルートは基本的に人のいる土地であり、野原などで野宿を迫られることはなかった。少なくとも屋根のあるところには寝ることができたので、テントは不要だったかもしれない。しかし、季節は夏。睡眠に蚊は大敵だ。その点では快適に眠れたので十分に役に立った。
 つまり、虫除け用に顔を覆うネット等を準備できれば、テントは必要ないのではないかと思う。ちなみに、蚊取り線香は野外では全く効果が無い。海沿いや周りに水場の無いところでは、テント無しでも蚊に悩まされることは無かった。
 寝具はエアマットだけ持っていった。エアマットは少々眠るのにコツが必要で、慣れるのに数日かかった。最終的に芝生の柔らかさなら爆睡した。驚いたのは夏の寒さ。真夏の8月でも夜寒くて起きた。山奥に入ると、朝は指がかじかんた。ポンチョやテントのフライシートを掛け布団にすると、気持よく眠ることができた。
 野宿の場所は色々。基本は周りに迷惑をかけないこと。
 実際に野宿したのは、バス停、駅のベンチ、公園の東屋、スーパーの軒先、山門の脇、橋の下、休校中の学校のグラウンド、道の駅、遍路小屋、等。
 疲労は最高の睡眠剤。

 次は宿の話。遍路道には3つのタイプの宿がある。
旅館、民宿…一般的な宿の形態。田舎になるほど民宿しか無い。他の遍路と歩いている時は、寝具の無いメンバーもいたので、泊まったりもした。素泊まりだと一番安い。2回ほど利用した。
善根宿…遍路向けの格安、もしくは無料の宿。おおっぴらに看板を掲げるところもあれば、ひっそりと口コミでやっていることろもある。おそらく最上の善根宿では、クーラー付きの布団付きで食べきれない量の弁当付き、が無料だった。スゴスギル…。ほとんどは遍路経験者が経営しており、善意のかたまりである。感謝してもし尽くせない。
宿坊、通夜堂…どちらも遍路で廻ることになる寺に所属している。ある寺と無い寺がある。宿坊は有料で、通夜堂は無料。通夜堂は本当に小屋がポンとあるだけで、何も宿泊設備は無い。それでも、屋根があるだけで違うものだなあと思う。

 日が沈めば眠り、日の出とともに起きるといった超原始的な生活を送った。

その他

 風呂は悩ましい問題。入らないと頭が痒くなるのは目に見えていたので、頭は坊主に刈りあげてから遍路に向かった。体は、寝る前に濡れタオルで拭く。吹っ切れると、風呂なんて入らなくても何も問題ないが、周りの人が問題に感じるようになる。つまり臭い。
 幸い温泉はそこら中にあるので、今日は頑張ったなという日は温泉に入る。シャンプー・ボディーソープは温泉にも置いてあるが、体をゴシゴシとこするタオルがないと、洗った気がしないので必須だと感じた。道後温泉のような簡素な温泉で安いのなら良いのだが、よっしゃ今日は風呂はいるぞ!と言う日に限って、プール併設とか言って料金が無駄に高くなるのは悲しい。

 移動は歩きが基本だが、私の場合は休暇がきっかり28日しか無かったため、全て歩きには少々日数が足りない。かといって、歩けなかった分を後から歩くにしても、ほんの少しにわざわざ行くもの気分悪いので、電車は使うが山道は全て歩く、というルールで遍路を行った。幸い、88の寺は不均一に点在しており、50kmほど離れた寺の間にちょうど鉄道が通っているようなポイントもあった。結果的に休暇をいっぱいいっぱいに使って全部廻り終える事ができた。他の遍路や善根宿で話を聞くと、荷物を減らして歩きだと、最速30日らしい。

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